IT統制って何だろう? 

最近、ニュースを見ていると「大規模システム障害で業務停止」「個人情報漏えいで謝罪会見」といった見出しが目に入ることが増えました。企業活動はいまやITなしでは成り立ちません。だからこそ、「IT統制」の重要性が高まっています。 

ただ、「IT統制」と聞いても、具体的に何をすればよいのかピンとこない方も多いのではないでしょうか。今回は、IT統制の基本について解説します。 

そもそも、IT統制とは何か? 

IT統制とは、企業の内部統制の一部であり、ITを使った業務を安全・正確に行うための仕組みを指します。例えば、次のようなケースを考えてみてください。 

ケース1:退職した社員のアカウントが残ったまま 

企業Aでは、退職した社員のシステムアカウントが削除されずに放置されていました。数か月後、そのアカウントを使って不正アクセスが行われ、顧客情報が流出。誰がアクセスしたのか特定できず、対応に多大な時間とコストがかかりました。 

ケース2:バックアップを取っていなかった 

企業Bでは、重要な販売データをクラウドに保存していましたが、バックアップは取っていませんでした。ある日、サービス障害で過去3か月分の売上データが失われ、復旧できませんでした。 
 
こうした問題を防ぐために必要なのがIT統制です。目的は大きく3つあります。 
 
1. 情報の信頼性を確保する 
財務データや顧客情報が正しく処理・管理されるよう、データの正確性を担保する仕組みが必要です。 
 
2. リスクを低減する 
不正アクセスを防ぎ、システム障害による業務停止リスクを減らします。前述の事例のように、適切なアクセス管理やバックアップ体制がなければ、企業は大きな損失を被る可能性があります。 
 
3. 法令やルールを遵守する 
金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)に対応します。これは、上場企業などが財務報告の信頼性を確保していることを証明するための仕組みです。特に上場企業やIPO準備企業では、IT統制の整備が監査の重要なチェックポイントとなります。 
 
つまり、IT統制とは「企業の信頼性を守るための安全ネット」です。 

IT統制には2つの種類がある 

IT統制は、内部統制の中でもITに関係する領域を指し、特に「IT全般統制」と「業務処理統制(アプリケーション統制)」の2つの柱で構成されます。 

IT全般統制:システム全体の土台を守る 

IT全般統制とは、財務報告の信頼性に影響を与えるITシステムを安全かつ適切に運用するための基礎的な仕組みです。以下のような要素が含まれます。 
 
【アクセス管理の事例】 
ある製造業では、全社員が同じ管理者権限を持っていたため、誰でも重要なマスタデータを変更できる状態でした。ある日、担当者が誤って取引先マスタを削除してしまい、請求書発行システムが機能停止。復旧に丸一日かかりました。 

→ 対策:社員ごとにIDとパスワードを設定し、職務に応じて必要最小限の権限のみを付与します。 
 
【システム変更管理の事例】 
あるECサイト運営企業では、新機能を本番環境で直接リリースしたところ、注文処理に不具合が発生。数時間にわたって注文を受け付けられなくなり、売上機会を失いました。 

→ 対策:新しいシステムや機能は、必ずテスト環境で動作確認してから本番環境に反映します。変更履歴も記録しておきます。 
 
【その他の重要な要素】 

  • バックアップと障害対応:定期的なデータバックアップと、障害時の復旧手順を明確にする 
  • 外部委託先の管理:クラウドサービスやシステム開発会社のセキュリティ体制を確認し、自社で定期的に監査する 
  • 業務処理統制:日々の業務でミスを防ぐ ……業務処理統制は、システム上で入力・処理・出力されるデータの正確性や完全性を確保するための統制で、「アプリケーション統制」とも呼ばれます。 

【入力チェックの事例】 
経理部門で、振込金額を「1,000,000円」と入力すべきところ、「10,000,000円」と桁を間違えて入力してしまいました。承認者も気づかず承認し、10倍の金額が振り込まれる事態に。 

→ 対策:請求書金額にマイナス値を入力できないようにする、必須項目を空欄のまま登録できないようにするなど、システム上で入力チェック機能を実装します。 
 
【データ突合の事例】 
ある卸売業では、発注システムと在庫管理システムが連携していなかったため、「システム上は在庫があるが実際には欠品」という事態が頻発していました。 

→ 対策:発注データと納品データを自動で突き合わせ、整合性を確認する仕組みを導入します。不一致があれば自動でアラートを出し、担当者が確認できるようにします。 

IT統制を整備するメリット 

「IT統制の整備にはコストも手間もかかる」と感じる方もいるかもしれません。しかし、実際には企業にとって大きなリターンをもたらす投資です。 

1. 信頼できる業務プロセスの実現 
データの正確性が担保されることで、経営会議で使用する数字の信頼性が高まります。「この数字は本当に正しいのか?」という疑問を持たずに、安心して意思決定を行えます。 
 
2. 顧客や取引先からの信頼向上 
大手企業との新規取引開始時、「貴社のセキュリティ体制について教えてください」と問われることが増えています。IT統制が整備されていることを示せれば、取引先からの信頼獲得につながります。 
 
3. 不正やミスの未然防止 
適切なアクセス管理と入力チェック機能により、ヒューマンエラーや不正行為を早期に発見できます。前述の事例のようなトラブルを防ぐことができます。 
 
4. 法令違反や監査指摘のリスク低減 
J-SOX対応が求められる企業では、内部統制(特にIT統制)の整備状況が監査の重要ポイントになります。事前に整備しておくことで、監査法人から指摘を受けるリスクを減らし、監査対応の負担も軽減できます。 

冒頭で紹介した「システム障害」や「情報漏えい」の背景には、IT統制の不備が一因となっているケースが少なくありません。逆に言えば、適切な統制を整備しておけば、多くのトラブルは未然に防ぐことができます。 

「守り」が「攻め」を支える 

IT統制というと、「守り」のイメージが強いかもしれません。しかし、実は「攻めの経営」を支える重要な基盤でもあります。例えば、あるクライアント企業では、IT統制を整備したことで以下のような変化がありました。 

  • システムの信頼性が高まり、新サービスのリリースサイクルが短縮された 
  • 顧客データの管理が適切に行われるようになり、パーソナライズされたマーケティング施策を実施できるようになった 
  • 監査対応がスムーズになり、IPO準備のスケジュールを円滑に進められるようになった 

しっかりとした統制基盤があるからこそ、企業は安心して新しい挑戦ができます。このように、IT統制は「攻めの経営」を後押しする重要な基盤です。 

まとめ 

IT統制は、企業規模や業種を問わず、業務の安定性や信頼性を高めるうえで有効な取り組みです。「うちは中小企業だから関係ない」と思われるかもしれませんが、前述の事例のようなトラブルは、会社の規模に関係なく発生します。 
 
まずは以下のような基本的な項目から着手することをお勧めします。 

  • 退職者のアカウントを速やかに削除する運用ルールを定める 
  • 重要データのバックアップを定期的に取得する 
  • システム変更時には必ずテストを実施する手順を定める 

当社では、内部統制や情報セキュリティの観点から、企業のIT統制強化を支援しています。「何から始めればよいかわからない」「監査対応で困っている」といった場合も、お気軽にご相談ください。 

 
※参考記事