子会社の内部監査で見えてくる“現場のリアル”

こんにちは。
内部監査を担当している“マラソンおじさん”です。
これまで約10年間、前職も含めて監査部門や常勤監査役として、さまざまな監査を経験してきました。
その中でも、最も多く関わってきたのが「子会社の監査」です。
子会社の形態は実にさまざまです。
親会社から分身型にて独立して事業を展開している会社もあれば、M&Aによってグループに加わった会社もあります。
共通して言えるのは、子会社では現場に精通した専門人材を配置し、スピーディーで実践的な意思決定ができることが大きな強みだということです。
その柔軟性が、顧客満足や競争力の源泉にもなっています。
一方で、監査に訪れると、必ず見えてくる「難しさ」もあります。
ここでは、子会社監査を通して感じた“現場のリアル”をいくつかご紹介します。
出向部長の知見不足がもたらすマネジメントリスク

子会社では、親会社から出向してくる社員が部長クラスの管理職として着任することがよくあります。
もちろん多くの出向者は誠実に職務を果たしていますが、中には事業領域や業界に対する知見が十分でないまま子会社の管理職を務めるケースも見受けられます。
現場を知らないがゆえに、判断が形式的になったり、「親会社の常識」に基づいた不合理な指示が出てしまうこともあります。
また、専門的な知識が不足していることで、部下への適切な指導や助言ができず、結果として現場の課長層が独自判断で動いてしまう“暴走”のような事態が起きることもあります。
このような問題は一見、個々の出向者の資質の問題に見えますが、本質的には経営監督体制の機能不全が背景にあります。
言い換えれば、経営の監督機能がしっかり働いていれば、こうしたリスクは未然に防ぐことができます。
監査人としては現場に起きている問題を確認するだけでなく、取締役会、経営会議等の重要会議の議事録を精査し、リスクが経営層において適切に認識・共有され、実効的な対応方針が検討されているかを確認することが重要です。
取締役会でのモニタリングが定着している会社では、人事配置や業務執行に関するリスクを経営全体で捉え、議論を通じて改善策を講じる体制が整っています。
国際内部監査人協会(IIA)が定める「グローバル内部監査基準」でも、「ガバナンスや内部統制の有効性の観点から、統治責任者に対して建設的な提案を行うことが望ましい。」と示されています。
監査人は単なるチェック役ではなく、取締役会の経営監督機能を補完し、改善提言を通じてガバナンスを強化する存在であることが求められます。
職務分離のむずかしさ

もうひとつ、子会社でよく直面するのが職務分離の問題です。
例えば、送金、金庫管理、発注・検収・支払、売上計上・請求書発行など。
本来であれば不正防止のため、複数人でチェック体制を構築すべきところですが、少人数の子会社ではどうしても一人が複数業務を兼務せざるを得ない現実があります。
大切なのは、「職務分離が不十分=不備」と単純に判断しないことです。
その環境下で、どのような代替策や補完的な統制を取っているかを確認することが重要です。
例えば、上長承認の強化、取引記録の定期レビュー、操作ログの確認など、限られた体制の中でも工夫を凝らしてリスクを抑えている会社もあります。
監査の役割は、「できていない」と指摘することではなく、
どうすれば限られた環境でもリスクを適切に管理できるかを一緒に考えることだと感じます。
子会社としての主体性を失わないこと

製造業や商社などでは、親会社の特定事業部を分社化して設立された子会社や、M&Aを経てグループ入りした子会社も増えています。
規模が小さい子会社ほど、経理・法務・人事などの管理機能を親会社に委託しているケースが多いでしょう。
親会社の支援を受けながら効率的に業務を行うこと自体は良いことです。
しかし、親会社への依存が強くなりすぎると、子会社として独自に整備すべき規程や法令対応が疎かになる場合があります。
たとえ実務が親会社の委託によって適正に処理されていても、会社法上の義務や労働関連法令の遵守、内部統制・コンプライアンス体制の整備など、子会社が自ら実施・管理すべきことは少なくありません。
監査では、こうした「法的責任主体としての自立性」が保たれているかにも注目します。
最終的な法的責任は子会社の取締役会にあり、親会社が代行できない領域があるという意識を忘れてはなりません。
監査の本質は“発見”ではなく“成長支援”
子会社の監査では、単に帳票や手続きを点検するだけでは本質をつかめません。組織の構造、人員配置、文化、意思決定の仕組みなど、背景にある要因まで目を向ける必要があります。
監査人の役割は、問題を探すことではなく、「どうすればより良くできるか」を共に考えること。
IIAの基準にも示されているように、監査はガバナンスや内部統制を“強くする”ための建設的な対話の場でもあります。
監査の醍醐味は、経営と現場をつなぎながら、組織を少しずつ強くしていくことにあります。
子会社監査を通じて、その重要な役割を改めて実感しています。

